Equalising Cambodian English Education

全てのカンボジア人に平等な英語教育を: Edemy共同創業者、ソヴァン・スルンさんインタビュー

[:ja]鈴木[:][:en]Azumi[:] [:ja]梓美[:][:en]Suzuki[:]

by 鈴木 梓美

日本では多くの大学で日本語の資料を使った、日本語による教育が行われています。そして、日本語でアカデミックな内容を学べることは当然のことであると考えられています。しかし、実はそんな環境はとても恵まれているのです。

カンボジアでは、カンボジア語で書かれたアカデミックな資料が不足しているため、より高度な知識を得るためにはまず英語を修得しなければなりません。さらに昨今、カンボジアを訪れる外国人観光客の数が増加し、外資系企業もどんどん進出しているため、良い仕事に就くためにも英語力は重要な要素です。逆に、英語ができないことはカンボジアでは大きなハンデであり、所得が英語力に左右されると言っても過言ではありません。このように英語力が生活の質を大きく左右する状況である一方で、カンボジアの多くの地域で質の高い英語教育が不足しています。

こうした「カンボジアにおける英語教育の格差問題」を解決するために立ち上がっている人々がいます。カンボジアの女性起業家、ソヴァン・スルンさんもその一人です。彼女は、手頃な価格で質の高い英語教育を提供する「Edemy」というソーシャルエンタープライズを設立しました。彼女の目標は全てのカンボジア人に平等な英語教育を提供すること。なぜこうした目標を持ちEdemyを設立したのか? インタビューを通して探ってみました。

農村部の学生は良質な英語教育を受けることができない

鈴木:まず初めに、Edemyが何をしているのか教えてください。

ソヴァン:Edemyは放課後の時間に、高品質な英語教育サービスを提供するソーシャルエンタープライズです。
Edemyには2タイプのターゲット層があります。

1つ目は、英語を学ぶ意志がありながらも良質な英語教育を受けることができない、特に農村部の学生たちです。農村部の人々が良質な英語教育にアクセスできないのは、情報不足だからではなく、ハイレベルな教育を提供できる教師が不足しているからです。そしてたとえ優秀な教師がいたとしても、彼らはより高い給与や自身のキャリアアップを目指し、その地域から出て行ってしまうことも少なくありません。その結果、学生たちは適切な指導ができない英語教師に頼るほかないという状況に陥っているのです。一方、プノンペンには外国人が設立した英語教育機関が多数存在します。けれども、その多くは授業料が5ドル以上といったように、一般的な下~中流家庭には到底支払えないような金額です。

もう1つのターゲットは、ハイレベルな英語教育技術が不足している教師です。Edemyのモデルに沿ったトレーニングを教師に施すことによって、都市から遠く離れた農村部にいる学生であっても、都市部と同じ水準の教育を受けられるようなシステムを作りたいと考えています。

英語教育に焦点を置く理由

英語で書かれた資料をカンボジア語に翻訳するなど、学生に高品質な教育サービスを提供する手段は他にもあったと思うのですが、なぜ英語教育に焦点を置いているのですか?

私たちは、アカデミックな知識の習得においても、キャリア形成においても、英語を学ぶことによってより多くの機会が得られると信じているからです。
優秀な教師のほとんどがプノンペンにいる一方で、70パーセントの学生は農村部で生活しており、需要と供給の関係が全く均衡ではない状態です。また、学生たちが工学のような専門的な知識を得たいと考えた場合、教科書の大半が英語で書かれているため、英語ができなければ何も理解できません。私は学びに対して積極的で、勤勉でありながらも英語という障害のために苦しむ学生をたくさん見てきたので、そうした問題を解決したいと感じたのです。

Edemy独自の、かつ最先端のシステムを実現する技術

どのような手段でサービスを提供するのですか?

私たちのサービスは、Edemyオリジナルのソフトウェアを使う授業と、先生や友達とともにクラスで学ぶ授業の2つを組み合わせて構成されています。例えば、現在完了について学ぶとします。まず月曜日に生徒たちはソフトウェアを使って、ビデオで現在完了形についての説明を見て、自分で練習問題を解くことで学習します。その後、火曜日に現在完了形のフレーズを使った会話練習をクラス内で行います。このように単元毎に文法学習、会話練習という順番に授業を行うことで、英語力を身に付けていきます。

ソフトウェアを使った授業の時間には、Edemy独自で開発したオンライン教材を、「Raspberry Pi」というデバイスを使うことにより、オフライン教材として利用します。このデバイスは小さなコンピュータとサーバーのようなもので、この中にソフトウェアをインストールします。私たちはそれぞれの教室に低価格のタブレット端末(Amazon Kindle Fire)を完備しており、生徒たちはこれを使ってRaspberry Piにインストールされた教材を使います。このシステムを使えばコストをかなり安く抑えられるため、私たちのプログラムに大変適したものとなっています。

実は私たちがEdemyを始めた当初、全てオンラインでサービス提供していたのですが、オンラインのみで提供すると多くの問題が発生することが分かったのです。多数のデバイスを同時にインターネットに接続すると、大変接続が悪くなる上、農村部のような地域ではそもそもインターネットに接続すること自体が困難なのです。それに、インターネットの長時間使用はとてもコストがかかります。そうなると私たちも高額な授業料を設定せざるを得なくなってしまいます。こうした経緯で、私たちはインターネットを極力使わない、Raspberry Piを駆使したソフトウェアのサービス提供をするに至ったのです。

生徒は手頃な価格で高品質な英語教育を受けている
生徒は手頃な価格で高品質な英語教育を受けている

Edemyのサービスは高額でも当然のような気がするのですが、生徒たちはいくらでサービスを受けられるのでしょうか?

現時点では、授業料は1クラスの生徒数によります。もし生徒数が多ければ、1人当たりの授業料は1ヶ月に5ドル程度です。しかし、生徒数が少なければソフトウェア面のコストをカバーするために8ドルになってしまう可能性もあります。しかし私たちの目標は、高品質で平等な英語教育を、全ての生徒に毎月5ドルで提供することなので、これから価格についてはもう少し改善していきたいと考えています。
私たちのプロジェクトでは、カリキュラムやビデオを作るためにIFL(Institute of Foreign Languages)の教師を雇っています。一度作り出した教材は何回でも使用できるものであるため、長い目で見れば持続可能なシステムであると言えます。そのため、私たちのサービスモデルには規模拡大について潜在的な能力があると考えています。

生徒には責任ある市民になってほしい

Edemyを通じてどのような未来を創っていきたいですか?

現在Edemyはまだ設立して間もないので、私たちはまだプノンペンに1か所しか拠点を持っていません。しかし私たちの目標は全ての人々へ高品質な英語教育を提供することであるため、これからどんどん農村部へ、そしてそれだけでなく海外へも展開していきたいと考えています。私たちはEdemyの教育モデルが、良質な教材が不足した地域での問題を解決できると信じています。もちろん私たちのサービスを他国へ適用するためには、現地の状況に合わせたカリキュラム作りは必要不可欠です。

現代、世界はますますグローバル化し、英語の重要度が以前よりも増しています。例えばシンガポールで公用語として英語が使われていることを考えれば、どれほど英語が重要になってきているかが分かると思います。私たちは、学習意欲がある人々に対しては機会が与えられるべきであり、彼らのために「プラットフォーム」となる場所を作りたいと願っています。もし生徒たちがEdemyで英語を学ぶことによって、自分の道を切り拓き、豊かにしていくことができたなら、私たちにとっても本望です。

ではソヴァンさんは、Edemyで学ぶことによって、生徒にどのように成長してほしいと考えていますか?

私は生徒に責任ある市民になってほしいと思っています。責任ある市民というのは、自立していて、自分自身で批評的に考えることができ、何か自分が情熱を持っているものに対して影響を与えることができる人々のことです。私がそのように考えるのは、責任ある市民を育てることによって世界が発展し、より良い場所に変わると思うからです。そして、人間どんなに学んでも学びつくせることなどないので、生徒には生涯学習ができる人にもなってほしいと思っています。

教育によって道を切り拓くことができた

Edemyを運営しているモチベーションを教えてください

そもそも私が農村部で良質な英語教育が不足していることに気づいたのは、大学生時代にボランティア団体、特に「the Fulbright and Undergraduate State Alumni Association of Cambodia」という団体の中でボランティア活動をしていた時のことです。私はいろんな人たちとともに働くのが好きで、なおかつコミュニティの発展にも寄与できるボランティアは、1つの趣味として楽しんでいました。その上、私はボランティアを通じて多くのことを学び、たくさんの経験を積むこともできたので、自分自身のスキルアップができたというメリットもあります。

そうした活動の中で、私は多くの学生が、彼らの不十分な英語力のせいで学問上の困難に直面していることを知ったのです。私たちはEdemyの中でこの問題の解決策を見つけたので、問題の解決は時間の問題だと考えています。もちろん、依然としてたくさんの困難はありますが、私たちは自分の使命を信じて、最善を尽くします。

教育によって道を切り拓くことができた

多くのカンボジア人学生が英語を修得するのに苦労している一方で、ソヴァンさんはどのようにアメリカに留学、Edemyを設立できるレベルまで英語力を向上させられたのでしょうか?

実は子どもの頃、私の母がとても厳しい人だったんです。母は夕食後にテレビを見ることを禁止し、私に英語、カンボジア語を問わずたくさんの本を読ませました。小さい頃は友達が見ているテレビ番組を見ることができなくて、とても悲しかった思い出がありますが、母のおかげで本を読むことに慣れ、今では読書が大好きです。子どもの頃から本を読み続けていたので、カンボジア語で書かれた本も英語で書かれた本も、難なく読むことができるようになりました。そしてもしかすると、私は父からも影響を受けているかも知れません。UNTAC(United Nations Transitional Authority in Cambodia)がカンボジアで活動していた頃、私の父はパートタイムで英語教師をしていました。父の夢はアメリカを訪れることでしたが、そんな父を見ていたので、私は幼少時から英語の重要さについて理解していました。もちろん何か行動を起こすにはあまりにも幼すぎる頃でしたけれども……。そして高校卒業後はIFL(Institute of Foreign Languages)に入学し、より高度な英語を学びました。在学中に、1年間のアメリカ留学のための奨学金を得ることができたので、留学も経験しました。

最後に、読者へのメッセージをお願いします!

自分の道を切り拓くためには、自分自身の能力を信じて、自分のやりたいことをすることが重要だと思います。もちろん、自信を持って自分のやりたいことをするためには努力も必須です。そして、もし他の人より何かを成し遂げることに時間がかかったとしても、自分を他人と比較する必要はありません。人はみんな違うからです。

Sovan Srun, Co-founder of Edemy

ソヴァン・スルン(Edemy共同創業者)

IFL(Institute of Foreign Languages)で国際関係学科を卒業、在学中に1年間米国留学を経験する。その後、コロラド州立大学のプログラムで経営学修士号を取得。
彼女は共同創業者のカグナリット・チアとともにEdemyを創業。Edemyは全ての人々に高品質な英語教育を提供することをミッションとするソーシャル・エンタープライズである。手軽なサービスを探している学生の皆さん、そしてお子さんに良質な英語教育を低価格で受けさせたい親御さんは要チェック!

Edemy

HP: www.edemy.org
Email: info.edemy@gmail.com

編集後記

ソヴァンさんはとても明るく、フレンドリーな方でした。インタビューの間、私の質問に意欲的に、そして辛抱強く答えてくださいました。きっとEdemyの生徒たちのあこがれの存在であるに違いありません。また、同時にEdemyに対してとても強い情熱を持っている人なのだなとも感じました。彼女の言葉はまっすぐではっきりしていて、Edemyの創業者としての確固とした信念が見られました。私はEdemyがますます大きく成長し、Edemyで学んだ若い人々が将来、自分の意志を持って飛躍していくであろうことを信じています。

Find a Column

Latest Offers from Local Startups

現地起業家と共に働く

Latest Offers from Foreign Startups

日系スタートアップで経験を積む

Find a Job at a Startup

Find an Experience