interview Chihiro Shinoda

誰のために何をしたいのか。内定を蹴ってたどり着いたカンボジアで起業という道。クルクメール代表 篠田さんインタビュー

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by 唐 語思

植民地支配、ポルポト政権と大虐殺、その後の内戦ーーいくつもの惨禍が人々の運命を翻弄し、経済、教育、医療など、様々な分野で未だにその爪痕が深く残る国、カンボジア。しかし、ここカンボジアは古来より約800種類もの薬草や鉱物が採れる恵みの国でもあり、インドの伝統医学アーユルヴェーダを起源とする伝統医療が千年以上もの時を超えて脈々と継承されてきた地でもあります。

2016年度「トリップアドバイザーエクセレンス認証」を受賞したkru khmer botanical社(以下、クルクメール)は、カンボジア産ハーブを用いたアロマ製品を開発・販売し、カンボジアの人々が安定した仕事と収入を得られるような仕組みを作っています。小学校をドロップアウトしたスタッフを雇い入れ、学歴のない女の子たちでも働ける場所を提供することで、人々を育てながら地域のゆっくりとした持続的な発展にも貢献しています。
そんなクルクメールをゼロから立ち上げたのは一人の日本人女性、篠田ちひろさん。大学時代に20数か国を旅し、ボランティア活動に参加するなど途上国支援に関わるも自分の力量のなさを感じ一度は就職を決めたという篠田さん。しかし、「自分は一体誰のために何がしたいのか」という疑問にぶつかり、心の声に素直に向き合った末内定辞退を決意し、エシカルが進んでいるイギリスのフェアトレード関連会社でインターンを経験した後、そのままカンボジアで起業を果たしますーー。
新卒海外×起業から7年、NHK、日経ウーマン、全日空(ANA)機内誌など、数々のメディアに取り上げられている今最も憧れの女性、篠田さんの学生時代を共に振り返りました。スーパーウーマンの彼女が歩んできた道のりとはどのようなものだったのでしょうか?

圧倒的な行動力とフットワークの軽さを持つ篠田さんは、「自分はデメリットを考えずにどうやったら物事を達成できるかだけを考える」とおっしゃいます。新卒で起業することのメリットやデメリットについても話していただいたので、読者のみなさんもぜひ「自分が本当にやりたい事を達成させるために必要なもの」を一緒にお考えください。

唐:現在行われているクルクメールの事業について簡単に教えてください。

篠田さん:今やっていることを一言でいうと、カンボジアの素材や文化を使ったアロマ製品の製造販売と、カンボジアの伝統医療をコンセプトにしたSPA運営です。農作物をそのまま流すのではなく、加工して、ブランディングして、カンボジアの魅力を伝えようとしています。カンボジアは貧しいとかネガティブなイメージが先行する中で、実は自然や文化、伝統、そして素晴らしい人々が存在している。そういったカンボジアの良いところを私たちは商品やサービスを通じて色んな人に伝えています。

kru khmer's product, herbal ball
クルクメールの製品のひとつ、ハーバルボール。お肌にパッティングするとつるつるたまご肌に!

ゆっくりゆっくりと地域が発展していくモデルを

クルクメールを通じてどのような世界を作りたいですか?

私の個人的なミッションとしては、クルクメールを心臓として、ポンプのように経済活動を循環させて、その地域がゆっくりゆっくりと発展していくというモデルを作りたいです。例えばある地域でハーブを育てて、採って、商品として作って、そこで販売して、というサイクルをカンボジア国内で完了させたいです。赤ちゃんもまず心臓からできて、そこからだんだん手が出てきたり足が出てきたりするじゃないですか。それと同じように、クルクメールに関わってくれた人が手となって足となって成長していくプラットフォームでありたいです。私がリーダーシップを取って関わっていくよりも、どんどん現地の人に任せて、その人たちがどんどん地域の経済を変えつつ続けていける組織になってくれたらいいなと思っています。

kru khmer old market shop
シェムリアップのオールドマーケットの直営店で、笑顔で素敵な接客をしてくれた女の子たち

なぜカンボジアの地域の持続的な成長や社会貢献に興味を持たれたのですか?

大学の時にカンボジアとベトナムに旅行に行って、その後学生団体でボランティア活動を始めたんですけど、当時は学歴がないような子でも仕事ができる場所を作りたいと思って、最初は本当にそれだけでした。ボランティアでは学校などいわゆる「箱」を作れてもソフト面では何もできなかったので物足りなさを感じていました。地域自体が貧しいので何が必要なんだろうって考えた時に、色んな活動がありますけどやっぱり生活を支える大切なものっていうのは安定した仕事と安定した収入だと思うんです。その安定した仕事と収入があるからこそ、安心できるから色んな事ができるようになる。そうすれば子供を学校に行かせる余裕も出てきたりする。親に安定した仕事と収入を作ることができれば、その地域も安定して発展していけるんじゃないかなと考えるようになりました。

社会貢献を特別な言葉のように絡めている今の社会の流れはちょっと違うと思います。仕事をしてきちんと税金を納めるだけでも社会貢献だと思いますし、私が起業した当時は、まだ社会貢献という単語や”社会起業家”という言葉はなかったかな。あったかもしれないけどこんなにブームではなかったです。

確かに自分が楽しみたいから起業したと仰る方が多いような気がします。今「社会貢献」という言葉がブームになって、クルクメールもそういう風に周りから見られていると思うのですが、それに対してはどう感じますか?

すごく複雑な気持ちですね。そういう風に言ってもらえるのは有り難いですが、自分が思っているレベルよりも周りが勝手にもっと高いレベルのように言うのは「やめてください~」と自己嫌悪感に陥ります。嬉しいっていうよりも苦しむ笑。

苦しむ笑。起業自体は、高校の時から興味があって大学で経営学部を選ばれたのですか?

それはまた少し違います。高校生の時は漠然と世界のことをもっと知りたかったです。世界のことも経済のことも、ニュースで言ってるようなことが分からなくて。ニュースを理解するためには歴史や地理、経済など幅広いことを知っていないとそれに対して自分の意見を持つことができないじゃないですか。ニュースを見て、理解してかつ自分の意見を持てる人になりたかったんです。じゃあどうしたらなれるかなって考えていた時に、ある投資家が世界旅行する本があって、その人は今起きている現象から次何が起きるだろうっていうのを投資家なので当たり前ですけど洞察する力があって、彼が予想したことが現実に起きていたりしてすごい感銘を受けたんです。私もこう考えられる人になりたいなって。色んなことがありますが、やっぱり経済活動は人間の生活と深く結び付いて、自分も経済を勉強したら少しは世の中に対する知識が増えるかなと高校生の頃は勝手に思いました。そこから経済か経営か悩んだ時に、マクロとかミクロとか漠然としたものよりもプラクティカルなものがより自分に合うかなと思って、経営学部にしました。

篠田さんは新卒で起業、しかも海外でというかなりエネルギーを要する決断をされましたが、大学の時に一度は就職活動をされたそうですね。

一度就職活動をしたのは、ボランティアをしていて自分の力量のなさを感じたからですね。大学の勉強では自分で何か答えがないものを考えて物事を進めていくっていうことをしたことがなかった中、ある意味ボランティア活動が初めてだったんです。学校は答えがあるけど世の中は答えがないじゃないですか。答えのない中でどうやって目標を設定したらいいのか、細かく言えばミーティングひとつでもどうやったら色んな意見を汲み出せるのか、モチベーションの保ち方、タイムマネジメントなど、色んな”社会人スキル”と言われるものが自分に全くなくて、自分はこれくらいできるだろうと思ったものができないんです、現実では。その壁にぶつかって、やっぱり最低限のビジネススキルを身に付けなきゃいけないなと思って、どこか鍛えてもらえそうな社長との距離が近いベンチャー企業を中心に見てました。自分で何かを始めることが好きだったので、ロールモデルになってくれそうな社長の下で働きたかったです。

就職活動をするも内定辞退。自分は一体誰のために何をしたいのか

就職活動をしたもののある日カフェにいたら、ふと「やりたいこと今すぐやっちゃいなよ」という声が聞こえてきて、気づいたら内定を辞退していたそうですね笑。内定を辞退されるまでどのような心境の変化があったのですか?

就職活動が終わって自分のこれからの人生を考える余裕が出てきた時に、本当に自分のやりたいことは何だろうというのを更に深く考え始めました。就職活動ではベンチャーを見ていたので当たり前ですけど周りの学生もベンチャーを志望しているガツガツした若者ばかりだったんです笑。株式公開して、お金持ちになって、一旗揚げてやる!という人が多くてすごく刺激になって楽しかった一方、起業するというのは例えばお客さんのニーズを叶えたり、今までになかったけど役立つものを提供したり、ミッションを果たすための手段として会社を作ったり株式公開したりするわけですよね。その手段の一つであるはずの起業や株式公開がゴールになってる人が多い気がしたんです。それにすごく違和感を感じたのと同時に、じゃあ自分はいったい誰の何のために何をしたいんだろうって。この時に先ほど申し上げた、学歴がないような子でも働けて、安定した仕事とお金がまわることによって地域がゆっくりゆっくりと発展していくモデルを作りたいと思いました。

周りと同じことをやる方が怖いと思った

内定を辞退した時、不安や恐怖はなかったですか?

全く怖くなかったと言えば嘘ですが、周りと同じことをやりたくなかったですね。周りが同じことをやり出すと急に熱意が冷めたりするんですよ。だから人と違うことをやることに対する恐怖感はもともと少なかったです。自分がやりたいと思うとあまり物事を考えずに動いちゃうタイプなんです。失敗したらどうしようとかネガティブなことを考える前にどうやったら達成できるかだけを考えてすぐに動くので、よく言えば行動力があると言えるかもしれないですが、悪く言えば何も考えずに突っ走る感じですね。

Chihiro Shinoda, founder of kru khmer

私の両親は資格を持った仕事をしていたので、彼らも一般的な就職活動をしたことがないんです。なので勤めたことがあるサラリーマンであれば、最初の就職活動で会社に入らなければどうなるんだろうとネガティブに捉える方もいると思うんですけど、うちの両親はそこをきちんとやらなかったリスクについてはあまり言わなかったですね笑。小さいころから引っ越しが多くて家がどんどん変わっていったので、新しい場所に行くことに対する抵抗もなかったです。

内定を辞退されてからカンボジアで起業されるまで、どのような経緯をたどったのですか?

印象が強かったカンボジアに行きたいというのはずっとありましたが、まず英語がしゃべれないと話にならないのと、物作りに興味があったけど「かわいそうだから買ってあげる」というのが嫌で、ブランディングを学びたくてエシカルやフェアトレードが進んでいるイギリスに行きました。最初はロンドンの語学学校に行って、その後スコットランドにあるフェアトレード関係のイベントをする会社でインターンというか雑用係のようなことをしました。イギリスにいる時もカンボジアに行きたいというのはずっと思っていて、日本で起業したほうがいいのか、カンボジアに直接行った方がいいのかということで悩んでいましたね。どうしようかな、やりたいけどもやもや、という時に考えても埒が明かないので、カンボジアに一ヶ月ぐらい行ったんです。現地に行ったら次のステップが見えてくるかもしれないなと思って。そこで現地で生活されている方にお会いして、やりたいことを話したらまずは住んで働いてみたほうがいいんじゃないということを言ってくださって、その方からお仕事をいただきました。それで働いていた時に、友達が出産したのでお祝いに行ったらその子が家でチュポン*をしていて、なんだろうと思ったのが最初ですね。

spakhmer
スタッフがエッセンシャルオイルと専用のストーンを使ってお試しで肩をマッサージしてくれます。筆者は5$のハーバル蚊よけスプレーを購入。天然素材を使っているので、寝る前でも安心してシュッシュして、蚊が多いカンボジアでも快適な夜を過ごせました。

*チュポンとはカンボジアの伝統ハーバルスチームサウナで、出産後の疲れを癒したり、体をあたためて新陳代謝を促したりなどの効果がある。篠田さんはこれにヒントを得て、カンボジアの昔ながらの素材を使ったSPA事業を立ち上げることになる。

ものすごい行動力をお持ちの篠田さんですが、今まで一番勇気が必要だった決断はなんでしたか?

何かを決断する時や新しいことをやる時はいつでも怖いですね。すごい怖くて病気になりそうになる。

胃がきゅうってなるやつですね笑。

そうそうそう、もうね、胃がきゅうってなるのレベルじゃないよね笑。全然悩みが少なく引きずらない性格の私ですら、夜中に心配で目が覚めて、目が覚めた一秒後にその事について考えるみたいな。私みたいな能天気な人でもこうなるって、心配性の人絶対無理でしょって思う笑。自分は何も考えていないぱっぱらぱーな人だと思うんですけど、決断疲れが起きた時に本当に誰かに決めてほしいなーとか、それでいいよって言ってくれる上司がいたら実はすごい楽なんだなと考えたことが一度あって、それに気づくまでに起業して5年ぐらいかかりました笑。
勇気がある人と無謀な人って紙一重で実は全然違う。勇気があるというのはリスクを分かった上でその壁を乗り越えて動ける人だと思うんです。私の場合は全然勇気がある人じゃなくて、リスクを分かってないままメリットだけを考えて行動するんです。無謀な人です笑。例えば2号店を出す時はかなり悩んだ部分もあったんですけど、やるって決めないと物事は動かないから、やるっていうことを周りに公言すると、やらないと「あの人口だけ、ぷぷぷ」ってなるから動くしかなくなる笑。

口だけって思われるのはやっぱり嫌ですか?

やっぱり嫌ですねー。結構「あの人有言実行だったね」って言われて死にたい笑。組織のトップになるということは、目指しているものへの想いが強くて、わーっと集中できるような性格じゃないと大変だと思います。自分で何事も決めないといけないので、そういった意味で誰のせいにもできないプレッシャーはありますよね。私は新卒で海外に、しかも起業したから意味不明なんですけど笑、仕事をしてお金を稼ぐって簡単ではなくて一度日本で就職して、最低限の仕事に対する姿勢やメールの書き方や会計の仕方まで、ビジネスとは何ぞやというのを知っておくのは良いことだと思うんです。それを勉強したからといって決して起業に成功するわけじゃないけど、ただ私はそれを知らずに起業してここはどうなんだろうと「常識」と言われる小さな事すらも悩んだ部分はありました。一方で、メリットは一言でいうと柔軟性です。一度就職すると良い意味でも悪い意味でも「こういう時はこうする」というのが経験として分かってきますよね。でも海外ではそれが通用しない事もあるから、日本でそういう経験がないままカンボジアに来たから起こるすべての現象に対して最初から決めつけることなく動くことができました。すべてを受け入れて、そういうことなんだというのを自分の中に落とし込んで、自分がこうだからこう、という自分の判断軸を作ってきたんですよね。

最後に、やりたいことを探す旅の途上にある若者に向けてメッセージをお願いします!

色んな人に会い、色んなことをしてほしいなと思います。そうする中で自分が得意なことが分かってくると思います。色んなことをチャレンジしてほしい一方で、20代の時、何か一つでも本気でやったなと思えることも持ってほしいなと思います。それがうまくいくかいかないか重要じゃなくて、これだけは最後までやりきった、これ以上は自分の力が出せないというところまで頑張ったということを何か一つ持っておくとそれが成功体験になり、そうした小さな成功体験の積み重ねによって更に一歩踏み出す勇気につながっていくと思います。

篠田ちひろ

青山学院大学経営学部卒業後、新卒でカンボジアに渡り起業。20歳の時にバックパッカー旅行でカンボジアを訪れ、大学時代は学生団体で学校建設などの途上国支援を経験。一度日本で就職活動をし内定をもらうも、もやもやした気持ちから辞退を決意。ボランティア時代の経験から、寄付に頼らない、安定した仕事と収入を作ることで地域の持続的な発展につながるモデルを作りたいと思い、イギリスでフェアトレードを学んだ後2009年にkru khmer botanicalを起業。2015年にはスパをオープンし、2017年5月より3日間のデトックスツアーも開始している。

kru khmer botanical店舗情報

1. クルクメール・オールドマーケット店
営業時間:09:00-21:00
電話番号:092-829564
住所:Old Market, Siem Reap, Cambodia
Facebook:Kru Khmer Botanical
HP:krukhmer.com

2. SPA KHMER
営業時間:10:00-20:00/火曜日定休
電話番号:011-345-039
住所:salakam reuk commune, siem reap, Cambodia
Facebook:SPA KHMER
HP:spakhmer.com

編集後記

傍から見たら本当に意志が強く、類まれなる行動力で自らの手で道を切り拓いてきたバリバリのキャリアウーマンの篠田さん。しかし実際にお話をしてみると、すごいことをやられているにも関わらず周りの意見に対しては驚くほど謙虚で、インタビューの解答からも分かるようにお茶目な女性だなと違う意味でも憧れの念を抱きました。クルクメールの店舗ではスタッフの女の子たちが笑顔でとても丁寧に接客してくれ、「ちひろはいつも私たちを助けようとしてくれ、本当に優しくて素敵な人」と教えてくれました。篠田さんが実現したい地域のゆっくりと安定した持続的な発展は、クルクメールがその心臓となって今日も一歩ずつ現地の人々を元気づけていることでしょう。

篠田さん・kru khmerのインターン募集をチェック!

伝統医療×現代美容のスパで、カンボジアの良さを発信するインターン!

カンボジア産の良質なスパ製品を広める社長直下型インターン!

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